2025年建築鉄骨鋼材の世界トレンド分析 | 建築鉄骨が分かるサイト遊房

2025年の建築鉄骨鋼材市場は、脱炭素化技術の実用化と地政学的要因が交錯する中で新たな転換期を迎えている。グリーンスチールの商用化加速、水素還元製鉄の実証プラント稼働、モジュラー建築の需要拡大が三大トレンドとして浮上する一方、米中の貿易摩擦再燃と中国の需要減退が市場に不確実性をもたらしている。

この記事の目次

1 脱炭素技術の実用化加速
2 グリーンスチールの量産拡大
3 水素還元製鉄の実証段階突破
4 地政学リスクと市場再編
5 米中の貿易摩擦再燃
6 インドの生産能力拡張
7 技術革新と建築様式の変化
8 モジュラー建築の急成長
9 BIMとデジタルファブリケーション
10 地域別需給動向
11 中国：不動産低迷の長期化
12 欧州：グリーン転換の加速
13 北米：インフラ投資の継続
14 市場見通しと課題
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脱炭素技術の実用化加速

グリーンスチールの量産拡大

日本ではいすゞ自動車が商用車部材へのグリーンスチール採用を開始し、神戸製鋼所の「Kobenable® Steel」、JFEスチールの「JGreeX®」、日本製鉄の「NSCarbolex® Neutral」が自動車メーカーから相次いで調達契約を獲得した5 16。欧州ではアルセロール・ミタルが水素還元鉄を30%混合したH形鋼の量産を開始し、CO2排出量を従来比45%削減することに成功している15。

マスバランス方式を採用したグリーンスチールの世界市場は2025年時点で107億ドル規模に達し、2035年まで年平均成長率18.7%で拡大すると予測される15。特にEUの炭素国境調整措置（CBAM）が2026年に本格導入されることを受け、低炭素鋼材の認証需要が急増している4。

水素還元製鉄の実証段階突破

日本製鉄が試験炉で達成したCO2排出量43%削減技術を基に、2025年6月にカナダ・アルバータ州で世界初の商業規模水素還元製鉄プラントが着工した6。同プラントは2027年稼働時に年間250万トンの低炭素鋼材を供給する計画で、建設費の40%をカナダ政府のグリーンイノベーション基金が補助している6。

地政学リスクと市場再編

米中の貿易摩擦再燃

トランプ政権が2025年3月に発動した鉄鋼関税の拡大措置では、アルミ缶や缶ビールを含む派生品に25%の追加関税が適用された12。これに対抗し中国商務省は4月、米国産H形鋼に対する反ダンピング関税を35.8%から42.6%に引き上げることを発表、両国間の貿易障壁が2018年以来の高水準に達している12 19。

インドの生産能力拡張

モディ政権が掲げる「インディア・スチール2025」計画では、2047年までに鉄鋼生産能力を年間5億トンに拡大する目標を設定10。2025年度の圧延鋼材輸出量を2,500万トンに増加させるため、JSWスチールがオリッサ州に新たな電気炉プラントを建設中である10 11。

技術革新と建築様式の変化

モジュラー建築の急成長

3Dプリンティング技術を採用した鉄骨モジュールの市場規模が前年比21%拡大し、北米ではデータセンター建設の60%がプレハブ鋼構造を採用8。日本製鉄が開発した軽量高強度鋼材「NS-Light®」は耐震性能を維持しつつ部材重量を15%軽減、超高層ビル建設の工期短縮に貢献している7。

BIMとデジタルファブリケーション

欧州の設計事務所50社中38社がBIMモデルと鋼材加工データを直接連携させる新システムを導入7。独SMSグループのAI制御切断システムにより材料歩留まりが8%改善され、施工現場の鋼材廃棄量が2019年比で34%減少した8。

地域別需給動向

中国：不動産低迷の長期化

政府系シンクタンクMPIの予測によると、2025年の鉄鋼需要は8億5000万トンと前年比1.5%減退9。住宅向け鋼材消費が3.2%減少する一方、インフラ向け需要は政府投資により4.1%増加する見込み9 13。

欧州：グリーン転換の加速

CBAM移行期間終了を控え、EU域内の鉄鋼メーカーが低炭素鋼材の生産シェアを2024年の18%から2025年は27%に拡大4。独ティッセンクルップが水素還元鉄100%使用の梁材を2025年Q2より量産開始する15。

北米：インフラ投資の継続

連邦インフラ法に基づく道路橋梁プロジェクトが2025年度に鋼材需要を前年比6.8%押し上げ11。Nucorの新型軽量鋼材「NuCore」が高速道路防音壁市場で50%のシェアを獲得している8。

市場見通しと課題

worldsteelの予測では2025年全球鋼材需要が1.2%増の17.72億トンに回復13。Fitch Ratingsは北米・欧州で2.3-3.1%の需要拡大を見込むが、中国発の輸出増加が新興国市場を圧迫するリスクを指摘14。

技術面では水素還元製鉄のエネルギーコストが従来法比1.8倍と高止まりしており、政府補助金なしでは普及が困難な状況6。労働力不足も深刻化し、米国建設業界では2025年だけで45万人の新規労働者が必要と推計されている11。

2025年の建築鉄骨鋼材市場は、環境技術の進展と地政学リスクの綱引き状態が続く。企業はサプライチェーンの多様化と脱炭素投資のバランス取りが迫られ、政策動向が技術普及の速度を左右する格好となる。持続可能な鋼材のコスト競争力向上が、市場構造転換の成否を握るカギとなりそうだ。