2025年日本の建設現場における安全管理の新たな流れ

2025年の日本建設業界では、深刻な人手不足と高齢化に直面する中、作業員の安全確保が最優先課題となっています。建設業の労働災害による死亡者数は全業種中最多で、全体の約29.5%を占めています9。こうした状況を背景に、先端技術の活用や法規制の強化により、現場の安全性を飛躍的に向上させる取り組みが進行中です。本レポートでは、2025年に注目すべき建設現場の安全対策について詳細に解説します。

先端技術による安全管理の革新

IoT・AIを活用した現場監視システム

建設現場ではIoTセンサーを活用した遠隔監視や自動化の推進により、作業効率の大幅な向上と安全性の確保が実現されています1。特に注目すべきは、AIが現場写真を解析して潜在的リスクを検出する「安全支援アプリ」です。このアプリは、たった1枚の現場写真をクラウドシステムにアップロードするだけで、転倒・転落、重機との接触、開口部の未養生といったリスクを自動で検出し、具体的な対策案を提示します3

安全支援アプリは過去に発生した類似事故の事例を参照し、「バックホーのオペレーターが着席する際に作業服のポケットが操作レバーに引っかかり、旋回して作業員がはさまれた」などの事実に基づいた情報も提供します。これにより、現場管理者は経験が浅くても効果的な安全対策を講じることができるようになっています3

さらに、AIを活用したデータ分析によって、現場の状況を瞬時に把握し、リスク要因を事前に予測することが可能になりました。IoTセンサーによるリアルタイムなデータ収集と連携し、事故の未然防止に貢献しています19

ウェアラブルデバイスと遠隔監視技術

作業員の安全確保に大きな役割を果たしているのが、ウェアラブルデバイスです。作業員の位置情報や生体情報をリアルタイムで把握するウェアラブルデバイスにより、熱中症予防や体調管理が可能になっています。心拍数や体温のモニタリングは特に夏場の作業において重要な安全対策となっています1

また、ウェアラブルカメラやメガネ型のスマートグラスを用いた「遠隔臨場」も国土交通省が推奨する技術です。現場の作業員がウェアラブルカメラを用いて映像をリアルタイムに事務所へ配信することで、監督職員は現場に行かずリモートで確認作業を完了できます。高所作業など高齢者にとって事故リスクの高い場面でも、遠隔地から熟練者による作業アドバイスを受けることが可能となり、安全性が向上しています6

ドローン技術の活用

2025年に向けて、建設業界におけるドローンの活用が急速に拡大しています。従来は主に測量や空撮に使用されていたドローンは、技術の進化とともにその役割が飛躍的に拡大しています2。特に、危険な場所での作業をドローンが代行することで、安全性の向上が大きなメリットとなっており、労働環境の改善にも寄与しています2

高層ビルの外壁検査や橋梁の点検など、人がアクセスしにくい場所での作業をドローンが代行することで、作業員のリスクを大幅に減少させることが可能になりました2

エクソスケルトンによる作業支援

産業分野での作業効率向上や労働者の負担軽減に大きく貢献しているのがエクソスケルトン(外骨格技術)です。特に重作業や長時間の単調な作業が求められる現場では、エクソスケルトンの導入が急速に進んでいます7

製造業や物流業界では、重い荷物の運搬や反復的な動作による体の負担が大きな問題となっていますが、外骨格スーツを装着することで、労働者の筋力を補強し、長時間の作業でも疲労を軽減させる効果が期待されています。体力や筋力に依存せずに作業を行うことができるため、無理な姿勢や負担の大きい作業による労働災害のリスクが減少します7

VR技術を用いた安全訓練

イタリアのIPLOM製油所で導入されたVR安全訓練プログラムが日本の建設現場にも応用されつつあります。このVRシステムでは、Unreal Engineを使用して現場の実際の作業環境を高精度で再現し、ガス漏れや火災などの緊急事態を含む複数のシナリオを体験可能です8

日本の製造業や建設業においても、このようなVRを活用した安全訓練の導入は有効であり、特に新人教育、定期的な安全訓練、高所作業や閉所作業などの特殊作業の事前訓練に活用されています8

2025年に施行される新たな法規制と企業の責任

労働安全衛生法改正と一人親方の保護

2025年4月1日から施行される労働安全衛生法に基づく新たな省令は、作業現場における全ての従事者の安全を確保するために改正されます。この改正の背景には、2021年5月17日の最高裁判所で下された「建設アスベスト訴訟」判決があります5

特筆すべき点は、労働者以外の者も労働安全衛生の保護対象に含まれることが確認されたことです。改正により、特に一人親方や他社の労働者などが安全に作業できる環境の整備が求められるようになりました5。これにより、建設現場の安全責任が元請事業者にも強く求められることになります。

熱中症対策の義務化

2025年6月1日より、企業に熱中症対策の実施が義務化されることになりました11。近年、熱中症による労働災害が深刻化しており、年間30人以上の死亡災害が報告されています。これは全労働災害死亡者の約4%にもなります11

新たに企業に求められる義務は主に二つあります。一つ目は早期発見体制の整備で、労働者自身や周囲が異常を感じたとき、すぐに報告・対応できる仕組みを企業が整備・周知することが求められます。二つ目は重症化防止の措置で、熱中症リスクがある作業において、作業中止・身体冷却・医療搬送などの具体的措置と手順を策定し、現場に周知徹底することが必要になります11

メンタルヘルス対策の重要性

建設業においても精神障害が多く発生しており、建設業の事業場におけるメンタルヘルス対策の取組割合が49.6%(令和5年)と低調であることから、メンタルヘルスケアの充実等の取組を推進することが求められています12

労働災害を防止する上でもメンタルヘルス対策が有効との調査結果(建災防実施)もあることから、建設工事の現場等におけるメンタルヘルス対策を適切に講ずることが重要となっています12

建設現場における主要な事故原因と対策

墜落・転落事故の防止

建設現場での事故は「墜落・転落」が死亡者数、死傷者数ともに最多の原因となっています10。令和5年の労働災害発生状況によると、建設業での死亡者数223人のうち、「墜落・転落」による死亡者が86件と最も多くなっています10

対策としては、IoTを活用した危険区域監視システムの導入が進んでいます。タグやビーコンを活用したエリア管理システムにより、危険区域への接近を検知し、警報を発することができます1。また、AI監視カメラが作業員の規定の安全装備着用状況をチェックし、適切な警告を発することも効果的です19

重機関連事故の防止

建設現場では重機との接触や「はさまれ・巻き込まれ」による事故も多発しています10。重機との接触事故を防ぐためには、「誘導員を配置する」「作業エリアを明示する」「安全教育の実施」などの対策が効果的です3

また、AIを用いた重機の自動制御システムの導入も進んでいます。AIが稼働状況を分析し、最適な動作を指示することで、人的ミスを減らしながら精度の高い施工を実現できるようになっています13

熱中症対策の強化

夏の労働災害の原因として上位にあるのが熱中症です。特に7~8月は、屋外で働く建設現場だけでなく、屋内の製造業でも作業中に熱中症で体調をくずす人が多くいます11

対策としては、作業員の体調を考慮した環境配備が大切です。「熱中症対策として仮設テントの休憩所を設置する」「送風機付きの作業着の着用を義務付ける」などの対策が効果的です10。また、ウェアラブルデバイスから血中酸素濃度や血圧、心拍数といったバイタル情報を採取することで、熱中症のリスクを管理することも可能になっています6

総合的な安全管理システムの構築に向けて

2025年の日本の建設現場では、先端技術の導入と法規制の強化が相まって、安全管理の大きな転換点を迎えています。IoT、AI、ドローン、エクソスケルトン、VRなどの技術革新は、単に作業効率を向上させるだけでなく、作業員の安全を確保する上でも極めて重要な役割を果たしています。

同時に、労働安全衛生法の改正や熱中症対策の義務化などの法規制強化により、企業の安全管理に対する責任はより一層強まっています。特に、一人親方を含むすべての作業者の安全を確保するという考え方は、建設業界全体の安全文化を変革する大きな契機となるでしょう。

今後は、これらの技術と法規制を効果的に組み合わせ、建設現場のあらゆるリスク要因に対応できる総合的な安全管理システムの構築が求められます。そうした取り組みを通じて、日本の建設業界が直面している人手不足や高齢化という課題に対応しつつ、作業員の安全と健康を最優先する持続可能な産業へと進化していくことが期待されます。

Citations:

  1. https://syokunin.work/column/construction-iot-efficiency-improvement-strategy/
  2. https://reinforz.co.jp/bizmedia/58731/
  3. https://ken-it.world/success/2025/03/landlog-safety-app.html
  4. https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001515729.pdf
  5. https://sr-takashima.jp/2024/09/30/houkaisei_041/
  6. https://www.topconpositioning.asia/jp/ja/column/time/t-0005.html
  7. https://reinforz.co.jp/bizmedia/58177/
  8. https://www.archelis.com/tachishigoto-mikata/industrial-vr-training-italy/
  9. https://www.pacola.co.jp/2024%E5%B9%B4%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%81%BD%E5%AE%B3%E7%99%BA%E7%94%9F%E7%8A%B6%E6%B3%81-%E6%AD%BB%E4%BA%A1%E8%80%85%E6%95%B0366%E4%BA%BA%E3%80%81%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E6%A5%AD%E3%81%A7%E3%81%AE%E4%BA%8B/
  10. https://www.rousai.org/letters/letters-3452/
  11. https://www.sbrain.co.jp/cc/anzen/anzen-planning/27614/
  12. https://jashcon.or.jp/membersite/wp-content/uploads/2025/04/20250402160022.pdf
  13. https://media.conoc-dx.co.jp/posts/n3PkhjIB
  14. https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001874692.pdf
  15. https://syokunin.work/column/construction-iot-implementation-guide/
  16. https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001843600.pdf
  17. https://iot.genech.co.jp/column/20250202/
  18. https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001515739.pdf
  19. https://reinforz.co.jp/bizmedia/58818/
  20. https://pando.life/article/658002
  21. https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187263.html
  22. https://pando.life/article/1227562
  23. https://iot.genech.co.jp/column/20241031/
  24. https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187033.html
  25. https://ai-kenkyujo.com/news/ai-architecture-merit/
  26. https://gotou-recruit.jp/column/detail/20250202090004/
  27. https://akihabara-ds.com/column/detail/40/
  28. https://newscast.jp/news/3523120
  29. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000141073.html
  30. https://pando.life/article/1148967
  31. https://news.build-app.jp/article/33650/
  32. https://www.kk-sun.co.jp/blog/2025/02/21/%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E6%A5%AD%E3%81%AEai%E6%B4%BB%E7%94%A8%EF%BC%81%E5%B7%A5%E7%A8%8B%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%A8%E5%AE%89%E5%85%A8%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%82%92%E6%9C%80%E9%81%A9%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B/
  33. https://www.sato-group-sr.jp/portal/archives/2209
  34. https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/kensetsugyohou-2025/
  35. https://www.pacola.co.jp/2025%E5%B9%B44%E6%9C%88%E3%81%8B%E3%82%89%E9%89%84%E9%81%93%E3%81%AE%E5%8D%B1%E9%99%BA%E5%93%81%E6%8C%81%E3%81%A1%E8%BE%BC%E3%81%BF%E8%A6%8F%E5%88%B6%E3%81%8C%E5%BC%B7%E5%8C%96%EF%BC%81%E9%89%84/
  36. https://www.mhlw.go.jp/content/001254088.pdf
  37. https://www.ceec.jp/column/kenchikukizyunho-2025-04/
  38. https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000450.html
  39. https://hcm-jinjer.com/blog/jinji/industrial-safety-and-health-act-amendment/
  40. https://sakumiru.jp/column/202504kenchikukijunhou
  41. https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/certif.html
  42. https://journal.smartsds.jp/detail/2025-4-1-industry-safety-and-health-act-amendment
  43. https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001846219.pdf
  44. https://www.hyotokyo.or.jp/news/member-public/19005.html
  45. https://www.hilti.co.jp/c/CLS_HEALTH_SAFETY/CLS_CONSTRUCTION_EXOSKELETONS
  46. https://tsumikiseisaku.com/reserve/?ym=2025-03
  47. https://pando.life/article/1094963
  48. https://pando.life/article/1019596
  49. https://cad-kenkyujo.com/vr-kenchiku/
  50. https://biodatabank.co.jp/ja/2025/04/2815/
  51. https://www.gartner.co.jp/ja/articles/smartrobots
  52. https://sakate.co.jp/blog/vr%E3%82%92%E4%BD%BF%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%AE%89%E5%85%A8%E8%AC%9B%E7%BF%92%E3%82%92%E5%AE%9F%E6%96%BD%EF%BC%81/
  53. https://yu-kensetsu.com/blog/money-house/heat-stroke/
  54. https://pando.life/article/930072
  55. https://www.wonq-xr.jp/articles/vr-safety-training
  56. https://www.gc-select.com/blogs/safety/heat-stroke
  57. https://www.kasetsuanzen.or.jp/industrial_accident/fall/
  58. https://bcp-manual.com/construction-industry-disaster/
  59. https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/202506-nettyuusyo-taisaku/
  60. https://www.kensaibou.or.jp/news_release/2025/index.html
  61. https://www.kensaibou.or.jp/safe_tech/statistics/occupational_accidents.html
  62. https://jsite.mhlw.go.jp/ehime-roudoukyoku/library/ehime-roudoukyoku/Library/annzenneisei/20159403.pdf
  63. https://live-air.jp/column/2318/
  64. https://www.kensaibou.or.jp/safe_tech/leaflet/files/0327f03e45edca10836f1bb2914f89e47c3cdff1.pdf
  65. https://www.jaish.gr.jp/syasin/ansy2024.htm
  66. https://www.daidoc.co.jp/column/occupational-accidents-construction-industry
  67. https://wakayamas.johas.go.jp/news/news-25969-2-2-3
  68. https://gunmachuobus.co.jp/files/libs/1706/202504012127333665.pdf
  69. https://www.okajimawood.co.jp/column/202401_02/
  70. http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2025/04/post-04e0c6.html
  71. https://pando.life/article/1132897
  72. https://ken-it.world/supporters/2025/04/2025%E5%B9%B4%E3%81%AE%E5%B4%96%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E5%9C%9F%E6%9C%A8%E3%83%BB%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E6%A5%AD%E3%81%AE%E8%AA%B2%E9%A1%8C%E3%82%92%E8%A7%A3%E6%B6%88%E3%81%99%E3%82%8Bdx%E5%AE%9F.html
  73. https://msafety.sonynetwork.co.jp/occupational_safety.html
  74. https://digital-construction.jp/tool/1803
  75. https://griffy.co.jp/news/752
  76. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/toukei_index.html
  77. https://okayamas.johas.go.jp/ro-sai/
  78. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40395.html
  79. https://www.nikoukei.co.jp/news/detail/523713

ABOUT US
アバター画像
管理者
建築鉄骨業界に10年以上所属(Hグレードの鉄工所)。鋼構造物に関する現場管理、製作、工務、品質検査など幅広く関わる。様々な相手に関わっていくうえで、【知ったつもり】になっている人があまりにも多く、また世の中にも詳しいかつわかりやすい情報が出回っていないことからかなり閉鎖的な業界と感じる。そういった経験から、整理した情報を発信する事が大切と感じるようになった。